シリコンバレー進出の伝道師的な渡辺千賀さんのブログにこんな記事がありました。
Uber・Lyftのドライバー事情
先週SunnyvaleでLyftに乗ったら、ドライバーはネパールから去年やってきたばかりという24歳の青年だった。グリーンカードの抽選に当たったのだそうだ。現在はコミュニティーカレッジで英語とコンピュータネットワークについて勉強するかたわらLyftの運転手をしているとのこと。(略)
この先は、コミュニティカレッジ(=2年制)から大学(=4年制)にトランスファーしてコンピュータ関係の学位をとりなおして就職したいと思っているとのことであった。しかし私が「インドでCSを勉強したんだったら、もう一度やり直すのはもったいなくない?UC Santa Cruzのエクステンション(サテライトキャンパスみたいなもの)がサンタクララ(=近く)にあって、日本の4大卒の知人がそこでCS関係のクラスをとってこちらに就職したけど似たようなことはできないの?」
と聞いたところ、
「知らない、それはなんだ」
と興味津々の様子で、「後で調べてみる」と言って「UC Santa Cruz, UC Santa Cruz」とつぶやいていた。
もしかしてシリコンバレーの伝道師ではなくUCSC Extensionの広告塔だったのかも。
技術習得を目的とするなら他の学校のほうがよい
その「日本の4大卒の知人」はおそらくグリーンカード持っていなかったからOPTを取る必要があったことでしょう。アメリカで就職するのに障害となっているものがビザなど滞在ステータスの問題か、滞在ステータスは問題ない(グリーンカード)だが英語力や技術力不足で就職できないのかは区別しなくてはなりません。原因が異なるのに同じソリューションを提供するのはコンサルさんとしてはまずいですね。
UCSC Extensionには確かに現地人も通っていてスキルアップを図っていますが、率直に言ってここで習えることは大したことはありません。外国人学生の大半はインド人の女性で、夫がこちらの企業で働いているからアメリカに来ましたという人が多いのです。面白いのは結婚するまで夫と会ったことがないという人が結構いること。お見合い結婚のような形で、この人と結婚すればアメリカに行けるぞって感じなのでしょうか。脱線しましたが、そういう学生が多い学校であるためか授業の質は大して高くありません。技術習得を目当てとしているならあまりよくない。ではなぜ通ったかというとOPTを最短の9ヶ月で取れるからです。ですからグリーンカードを持っている人にこの学校を薦めるのは意味がないと思います。
私がこの渡辺さんの立場ならブートキャンプを勧めます。
卒業生の初任給は1,300万円! 人気プログラマー養成学校訪問
授業は朝から晩まで1日11時間という超過密スケジュール。それが週6日、12週間続く(中間に1週間の休みがあるため、プログラムの合計期間は13週間)。そして驚かされるのは、授業料の高さ。なんと3か月で1万7,780ドル(約210万円)。ここには食費や宿泊費などは含まれていない。それでも同校には応募者が殺到しているという。
アメリカでは最近、このような「短期集中」を特徴とするプログラミング・スクールが急増中だ。アメリカ海軍の新兵トレーニングになぞらえて「ブートキャンプ」と呼ばれる。ハック・リアクターによると、こうしたブートキャンプはすでに全米で100校ほどあるとみられている。
急増の背景には、アメリカにおける深刻なエンジニア不足の問題がある。米労働省・労働統計局の試算によると、ソフトウェアエンジニアの雇用は、14年からの10年間で約19万人増加すると予測されている。その不足を補うため、オバマ政権は昨年3月、エンジニア職への雇用を増やすための施策を発表。大学などの学位認定機関だけでなく、こうした民間のブートキャンプやオンライン教育プログラムなどにも協力を呼び掛けているのだ。
中でも、ハック・リアクターは「ブートキャンプ界のハーバード」を標榜し、高い人気を集めている。学校の説明によると、応募者のうち入学を許されるのはわずか15%という狭き門だ。
それでも同校を卒業すれば、ソフトウェアエンジニアとして明るい未来が約束されている。卒業後3か月以内の就職率は99%、そして初年度の平均年収は10万5,000ドル(約1,300万円)に上る。卒業生は、グーグルやフェイスブックなどの大手から躍進中のスタートアップまで引く手あまただという。
メリットは次の通りです。
就職先を斡旋してくれる
外国から来た人にとって英語はかなりの壁です。普通のプロセスで企業に応募しても電話スクリーニングから面接を経て採用となるわけですが、電話スクリーニング1つとっても外国人にはやっかいです。むしろ電話の方がやっかいかも知れません。相手が目の前にいなくて、身振り手振り表情、場合によってはホワイトボードで説明しますという手も通じません。相手の声も目の前にいるより不明瞭です。
こうしたブートキャンプは独自のコネがあるようで、こいつは英語は下手だが技術は折り紙付きだとひとことリファレンスでも付けてくれれば優位に事が運ぶと期待できます。
また、学校側も求人を集めるノウハウがあると思います。卒業生を既に多数送り込んでいる企業から人がもっと欲しいという依頼があるかも知れません。それを回してくれれば助かると思います。UCSCXでも2, 3回は仕事を探している会社があるよ的なことは聞きましたが、基本的に学校は就職についてはノータッチです。
学べる技術水準が高い
ブートキャンプでは刑務所のような環境でプロとして通用するスキルを短期間でみっちりやるといいます。UCSCXの場合は実用にはほど遠いレベルの授業がたくさんありますから、それと比較すると雲泥の差でしょう。
一方でブートキャンプで習うことは現在のトレンドであることが多いので、トレンドが変わると通用するかはやや心配です。『10年のツケを支払ったフロント界隈におけるJavaScript開発環境(2016年4月現在)』という記事によりますと、この記事の場合はWeb限定のようですが環境は激変しています。jQueryが必須だった時代は既に過ぎて、今ではReactになっているとか。コンピュータサイエンスの基礎がない状態でjQueryのスペシャリストになった人は数年前は仕事に困らなかったかも知れませんが、2016年では雲行きが怪しくなってきます。
デメリットなど
デメリットは短期間とは言え集中的に授業をすることです。UCSCXは授業の取り方によりますが週3日くらい、夕方6時半〜9時半くらいまで授業があるだけでかなり時間は融通が利きます。普段企業で働いている人が終業後にスキルアップする目的に学校でもあるからです。
あと学費が高いですね。ほとんどの人はこの学費を見ると逡巡してしまいます。
実は私のいる職場にもグリーンカードを当てたけど、英語が不自由で技術もない人がいます。いると言っても滅多に来ません。普段はUberの運転手をしています。渡辺さんの記事に書いてある人と似ていますね。彼にはUberの仕事ばかりしていてはエンジニアにはなれないから、ローンでも組んでブートキャンプ言ったらどうかと勧めたことはありますが、ローン組んで仕事やめてブートキャンプに通うほど瞬発力のある人はそうそういないのかも知れません。おそらく彼は10年後も運転手している気がします。
やや自画自賛ですが、自力でアメリカに来てビザを取ろうという人は行動力があります。自分に限らず周りで頑張っている人はみんなたいしたものです。明確なビジョンがあり、そのために何が問題でどうすれば解決できるのか調べる情報収集能力と実行力があります。逆にそうした能力がない人はこちらに来ないし、来たとしても短期で帰ってしまいますから生き残っている人は傑物揃いということです。日本で仕事を辞めて無収入になり、アメリカの生活費の高いエリアに通いつつOPTを取るためにUCSCXなどの学校に通うというのはかなり勇気の要ることです。普通の人であればそんな冒険をするよりは安全な道を選ぶでしょう。
しかしグリーンカードを抽選で当てた人はそうした能力がなかったとしてもアメリカに来ることができます。そうした人にとって安全な道はローン組んでブートキャンプで実力付けて仕事を斡旋して貰うことより、Uberなどの運転手をする方が精神的にずっと楽なのです。だから、何年もの間、スーパーシャトルとかUberの仕事を続けて、エンジニアになりたいんだと言うけれど、この先もずっと運転手になってしまうでしょう。Uberの場合は特殊な技能は必要ないし、英語もできなくて大丈夫ですから。
さらに余談ですが、渡辺さんのブログに書いてあったネパール人だけでなく、私の職場にたまに来る彼もまたグリーンカードを取ったらすぐに結婚の話がまとまりました。今まで一度も会ったことのない女の子を紹介されすぐに結婚してアメリカに来たそうです。自力でグリーンカードを取るのは非常に大変で、ほとんどの人にとっては不可能とも言えるでしょう。しかし親戚か友達の伝か知らないけど、グリーンカード当てた人がいて結婚すれば簡単に入手できることから、アメリカに行きたい人がたくさんいる途上国ではこういうケースはあり増えているのかも知れません。UCSCXのインド人女性たちもそうですね。日本だとそこまでガツガツしている人は多くないのでちょっと不思議に思えます。アメリカに行けるなら好きかどうかもわからない初対面の人と結婚する?
目的に応じた学校選び
学位取得したいのなら、たとえ意味がないと思っても4年制大学や大学院を選ぶ必要があります。例えばH-1Bビザを申請するには事実上大学院卒の学位が要ります。学部卒だと不許可になることが多いのです。ただ不思議とコンピュータサイエンス界隈では大学卒でもOKです。短大だとかなり難しい。なので、学位が必要な人は大学に行く必要があります。
私は学位は持っていたのでOPTだけが必要でした。そして時間を長くかけることもできなかったので最短の期間でOPTが取れるUCSCXを選びました。私にとって学位過程は不要なものだったのです。
もし学位だけでなくOPTすら不要だとしたらUCSCXに行く意味はないでしょう。前述のブートキャンプとか、Udacity Nanodegreeのようなオンライン講座がいいでしょう。Udacityは提供しているコースのレベルが基礎コースからUCSCXより数段高いものまで系統だって用意されていて、シリコンバレーの有名企業がスポンサーとなっていてコネクションが期待できる上に、就職保証までしています。ですから渡辺さんの会ったネパール人のようなケースではこちらのほうがよさそう。
とは言っても、いろんな人と話をしてきたけどそんな新参の学校なんか企業は相手しないよみたいな意見の人も多く、伝統的な4年制大学を好む人もいるのは確かです。
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