NHKの電子立国シリーズが面白い

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前回の記事で新・映像の世紀の話をしましたが、NHKスペシャルにはとても面白いものが多く、できれば国外でも見ておきたいなあと思います。その中で今回は電子立国シリーズに焦点を当てます。

電子立国シリーズはハードウェアの話を中心にした『電子立国日本の自叙伝』と、ソフトウェアの話を中心にした『新・電子立国』があります。どちらも大変すばらしいシリーズです。

シリコンバレーにいるということは、スタートアップ(ベンチャー企業)に少なからず興味を持っているということです。日本の大企業の相当数が、何万人という従業員を抱えつつ膨大な赤字を毎年生み続けています。もしこの会社が倒産すればその従業員は赤字を生み出す作業から解放されて、ほかのより効率のいい仕事に才能を発揮するでしょう。大企業の従業員は一般的には能力の高い人が多いと言われているのでなおさらです。能力の高い人を何万、何十万人と拘束して赤字を生んでいるというのは日本の大きな社会問題です。保育園の問題にしても元をたどれば財源の問題であって、企業がより稼いで税金を納めるようになれば解決することです。日本の問題の多くは財源や景気の悪さが原因です。もしシリコンバレーのように次々に高い生産性の会社が生まれてくれば色々変わるはず。

日本にはベンチャースピリットはないのかと思うと、意外なことにハード編のほうでは結構やる気のある人がいます。ただ時代が古い。敗戦後の物資のないところで半導体の研究をするために、バケツに穴を空けてシリコン結晶の引き上げを行ったとかそんな話です。それも街の発明家がやっていたわけではなく、国の研究所でそんなレベル。ソフトのほうではゲームの回がベンチャー精神溢れた日本人がたくさん出てきますね。

番組の中でも日本の若者はやる気がないみたいなことを言われますが、これはもう20年以上前の番組ですから、そのときから進歩していない、むしろ悪化しているというのは困ったことです。そんな中、この番組を見ると勇気づけられる気がします。

電子立国日本の自叙伝

電子立国で検索するとYoutubeの動画が出てくるのですが、これ海賊版ですよね?海賊版へのリンクを貼るのはどうかと思うけれど、上位にYoutubeの結果が複数出る状況ですから、たとえここで紹介しなかったところで何も変わらないので紹介することにします。全部面白いけど特にお勧めのものに絞ります。

第3回 石になった電気回路

この辺からシリコンバレーが出てきます。シリコンバレーの原点と言える話。1950年代はシリコンバレーもただの果樹園畑であったとか。意外と最近ですねー、生まれる前の話だけど、親の世代くらいだと考えるとそんなに昔という気はしませんな。ここにAT&Tのベル研を辞めた、トランジスタ開発で有名なショックレーがやってきてショックレー研究所を発足させます。この研究所には「頭脳明晰、野心満々、彼らこそが後に半導体を現代産業に押し上げる原動力となった」秀才がたくさん集まってきます。ここの求人広告には電話番号が暗号化されて書かれていて解けた人だけが応募できるという遊びに満ちたものだったようですね。シリコンバレーっぽいです。なんでここに研究所を建てたかというとショックレーのお母様が近くにいたからだそうです。もし彼のお母様がほかの地域にいたら歴史は大きく変わったことでしょうね。従業員の家族からは鶏が走り回るようなど田舎は嫌だと言われたとか、当時の様子を聞くと楽しくなりますね。

ところがショックレーは研究者としては天才だったけれど経営者としてはひどかったそうで、色々あったけど結局みんなで脱走してフェアチャイルドという会社を作ります。そしてさらにフェアチャイルドの人達がインテルを作るという流れですね。ロバートノイスはチャンスがあればいつでも飛びつくのがアメリカ流といいます。

具体的にMOS型トランジスタを作る過程や、そのために写真技術が有効だったとか色々なアイディアを次々採用した話も見所です。日本の技術者の苦労もあり、こういうのを聞くだけでも面白い。

最後に、当時の日本人技術者がアメリカの学会にきたときのこと、聞くに堪えない英語で稚拙な内容を語る不思議な集団と言われています。私の英語もそんな大したことないのでなんですが、みんな英語では苦労していますね。

それはそうと『あなたが知らないシリコンバレーの歴史』という記事を最近読みました。動画はこちら。

フォーカスしているところはちょっと違うけど、両方ともシリコンバレーの歴史についての動画です。この動画で足りない部分を電子立国では見ることができます。

第5回 8ミリ角のコンピューター

CPUの話。自分の場合トランジスタは自分では使うことはありません。トランジスタ組み合わせて加算回路作ったことあるけどさすがに大変すぎました。しかしCPUくらいになるとたとえ4ビットCPUであっても興味が持てます。最初のCPUはインテルの作った4004というものでした。さらにその設計には日本人が深く関与しています。なぜ日本人がというのは電卓で使うからという、前回の電卓競争の話からつながってくるわけです。

興味深いのは4ビットCPUが誕生した頃、世間では24ビット回路とかが熱かったということです。日本のビジコン社という会社がインテルにチップを13だか19個だか依頼するわけですが、それをやる力は当時のインテルにはない。ROMのプログラムを実行する命令をシンプルにしたら、LSIの設計がシンプルになるとインテルの技術者が考えた。ストアードプログラムの方法を推し進めて、命令セットを持つチップを作って、キーボードやプリンタ駆動のLSIもそこにまとめてしまうアイディアになったとか。

採用面接を受ける人に(10進数で1桁ぶん入る)4ビットやる気ある?って言うと呆れられて来なくなったというから当時のインテルもよくわからないスタートアップだったということですよね。もし最初のCPU設計に携わったとしたらその後のキャリアは華々しかっただろうにビジョンを理解できなかったあというわけですね。CPUがあるのが当たり前の時代に育った私としては逆に不可解ですが、そこにインテルというスタートアップを大成功に導く発想の転換があったというわけ。

後半の58分目くらいから始まる、紙に回路を引いたものを床に並べて、真ん中には本物の16ビットCPUを置き、徐々に拡大していくシーンは鳥肌ものです。

新・電子立国

ここからはソフトの話。自分自身ソフトのエンジニアなのでハードの話は興味深く見たけれど、より関心が強く身近に感じるのはこちらです。

第4回 ビデオゲーム~巨富の攻防~

ゲーム大好きです。ニートになってゲームばっかりやって引きこもっていたいくらい好きです。

この回は日本に焦点が当たっています。アタリからファミコンへ変わっていくあたりの話。任天堂がアメリカでどのような戦略をとったか、ドンキーコングの話、任天堂法務部が最強と言われるゆえんなどのおもしろい話が目白押しです。任天堂のニューヨーク支社で社員が転職活動しながら仕事していたほど当時の任天堂はお先真っ暗だったのだそうです。

歴史の話もあります。おそらく世界最初のコンピュータゲームの話から、遊園地でバイト経験がある人がこれでお金を取ろうと考える流れ、予想に反してコインがもう入らないくらい売り上げがあがったとか。

ハドソンの話もすごい惹かれますね。ハドソンの経営者兄弟で弟さんはやや強面の気もするけど常識人、兄がぶっとんでいます。札幌にあったハドソンですが、秋葉原にコンピュータを見に行くとオタク店員が何を言っているかわからない説明をする。日本語で聞いてもわからないのだからアメリカに行こうと言い出す。当時のハドソンは東京へ行くお金もろくにないのにアメリカに行き、高価なコンピュータを借金して買ってくる。支払は何とかなるだろうと。これで成功したからいいけど失敗したらただのだめ人間でしかありません。こういう人好きです。

全体的にスタートアップ気質の人がたくさん出てくるので勇気をもらえます。

ソフトウェア帝国の誕生~天才たちの光と影~

主にビルゲイツの話。彼が10代の頃からいかに抜け目がなかったかよくわかります。マイクロソフトというと、半分はビジネスなどの効率重視の人が使っていて、製品そのものには大して情熱はなく特定のソフトが使えるからという理由のユーザーが中心のように見えます。コンピュータ好きの人の間ではあまり評価されていないというか悪し様に言われることが多いかなと。まとめサイトは恣意的な編集があると理解した上で『マイクロソフト「Windows10が普及しないんでWin8.1とWin7のサポート打ち切るわ」』を見ると、新しいOSへの移行を拒む人が多く、未だにXPで十分なんて人も残っています。Windowsユーザですらマイクロソフトには大して敬意を払ってない。中にはゲイツなんか運がいいだけで製品自体はクソみたいな話も聞きます。でもこの動画を見るとゲイツは相当なやり手であり、要所要所で大胆かつ的確な意思決定を何度も繰り返してきた人物ということがわかります。

アップルの話もありますね。しかしWindowsそっくりでしょ?とか言われるとマックユーザーは面白くないだろうに、とも。Windows95以前のWindowsはほんとひどいものだったと思います。Windows 3.1の頃から徐々に普及したけどランチャーの域を出ていないとよく言われましたね。でも一番重要なのはMS-DOSで動いていたパソコンで、MS WordやExcel(これらのソフトは元々Mac向け), Photoshopなどが動くようになったことです。GUIのランチャーはMS-DOSにもあったけど、ソフトはDOSのソフトしか動きませんでしたからね。しかし、Macで使われていた有力ソフトがMS-DOSパソコンで動くとはいえ、GUI自体の成熟はWindows 95を待つことになります。

キルドールの家がパシフィックグローブにあると映りますが、最初にこれを見たときは全然知りませんでした。でも最近ちょっと遠出してパシフィックグローブを訪ねてそれからもう一度この動画を見るとあー、ここかあと感激したり。ただ、キルドールはサンノゼーパシフィックグローブを自家用ジェットで移動していたというのはなんとも豪儀なことです。それとキルドールにインタビューした直後に彼は死去してしまうので、もしかするとキルドールの最後の映像になるのかな。最後ではないかも。

第6回 時代を変えたパソコンソフト~表計算とワープロの開発物語~

前回がOS中心だったので今度はアプリの話。VisiCalcの開発話はスタートアップ精神に満ちていて見ていて楽しいです。会社としてはロータスのほうがうまくいったようだけど。

ジャストシステムの話が後半にあるけど、これはどういうわけかあまり興味がない。これも日本の珍しいスタートアップとして貴重な話なんだけど、最近は勢いを感じないし、ATOKもながらく使っているけどもういいかなという気もします。ATOKってこのインターネット時代に語彙がそもそも足りないし、なんでも正しい日本語にこだわっているようだけど、その正しい日本語を決めるのはジャストシステムではない気もします。時代はGoogleかなあ。ジャストシステムの専務になったアルバイトの少年は、ハドソンの北大のアルバイト学生に何となく似ていますね。普通に進めば将来安泰の人がよくわからない企業に就職してしまう(そして幸運に成功したから話が残ってる)のは昔のいいところかなあ。

今の日本はレールから外れたら戻るのは困難なので、この当時より冒険しにくいですよね。東芝の西田元社長でしたっけ?たしか彼も大学を出て世界を放浪してイランあたりで結婚して、30歳くらいでそろそろ就職するかーって東芝に入り社長になったとか。他にライブドアに買収された弥生会計の社長さんも、アメリカ放浪していてそれからソニーに入ってる。今は30歳の既卒で就職活動しても大企業はまず無理ですよね。どうしてこうなった?

第9回 コンピュータ地球網~インターネット時代の情報革命~

インターネットの話。いまなお急速に変化しているインターネットを20年近く前に特集した番組なんて、と思うけど歴史物としては十分にあり。

前に見たときはティム・バーナーズ=リーもDH鍵交換のホイットフィールド・ディフィーも全然知らなかったけど、すこし知識をつけてから見直すと感激もひとしおですね。ディフィーって母親のお金を頼りに定職につかず、でもアカデミックな雰囲気に浸りたいとか言って、学生でもないのにスタンフォード大学に出入りしていたらしいけど、これなんか見覚えある話ですよね。きわめてニートっぽい。ニートもいろんなのがいるけど、実力もないのにプライドはいっちょ前で知的な雰囲気に酔いしれているニートって自分の周りには多いかなー。この人も実力のほどは定かではないです。なぜなら公開鍵暗号のアイディアを開発したとしているけど、具体的な実装はぜんぜんできていなかったみたいだし、思いつきだけならニートでもできますからね。もちろんこの方はすごい人の方ですが、雰囲気がニート。

RSA暗号の話も面白いですね。ディフィーのアイディアを見て具体的に公開鍵暗号のRSA暗号を開発し、スタートアップを作り投資を受けます。しかし社長がどうしようもない人で、投資マネーを食いつぶすだけ食いつぶしてしまうとかだめ人間多すぎです。そのあとギリシャから来てグリーンカード取った(どうやって取ったんだろう、昔は簡単だったらしいけど)人を社長に迎え入れてRSA社は軌道に乗るわけです。

人間ドラマとしてのおもしろさはこの最終回が一番かなと思います。

余談

シリコンバレー界隈ではいまもハッカソンなどでいろいろなアイディアを出して一発当ててやろうという人が多く熱気を感じます。ただ、その多くは思いつきベースで大して技術的な裏打ちもないようなものが多いかなとも思っています。

Twitterは大成功した会社と言えますが、そのアイディア自体はシンプルです。Facebookもそうですね。たまたま時流に乗って成功したけど、個人的にはそうたいした会社だとは思っていません。もちろん今では多くの優秀な人を抱えていいものを作っていますが、初期は単にアイディアをひらめいて実行したら当たったというだけだと思っています。他にも同じようなことを思いついたけれど、チャンスをつかみ損ねた会社は多いでしょう。その辺でGoogleのように技術オタクの集まりとはちょっと違うかなーとも思っています。で、私はGoogleのような何か技術をベースにしたものでビジネスできたら嬉しいなと思います。もちろん学者にありがちなように、その技術を使うこと自体が目的となってはいけませんが。

電子立国の成功者たちは今のWebサービスバブルとは異なる明確なビジョンを持ってビジネスを始めた人が多い点で、繰り返し見ても発見が多く、勇気づけられる番組です。