という本があったので10分くらいでさらさらと立ち読みしてみた。
リクルート出身のカリスマ人事コンサルタントというだけで非常に辟易としているのだけど、書いてあることは案外まともだった。不毛な《醜活》ゲームを設定して、多くの学生を苦しめているのみならず、おそらくその基準で採用した新入社員の質の低下に不満を持っているという点で企業側にも迷惑をかけているように思う。あいつら二言目には優秀な学生がいないとか、日本の学生はダメだとか、海外の優秀な学生を採用したいとか言っている。自分たちの採用活動が大学生活を破壊してステレオタイプな学生を量産しているという意識はないのだろうか。
今の《醜活》は苛烈を極めている。さらに新卒で就職しないとおそらくまともな人生は歩めないという強迫観念で無理矢理駆り立てられている面もある。少し上の世代、ロスジェネ世代が未だにワーキングプアが多いことを考えれば、今度のNNT学生はきっと救われるなんて甘い妄想に浸っている余裕はない。まるで背中に拳銃を突きつけられて「就職活動は自由意志でやりましょう♪」と言われているような感じ。英語で言えばhad better。そんなの自由な意志決定じゃない。脅迫罪の保護法益は意志決定の自由らしいけど、新卒制度って脅迫罪かなにかで告発できないかな。無理だろうけど。
前回書いたように、まともな企業に限ってはESはきちんと人間が読んでいると感じた。ただ、ESをテキストマイニングのような方法で人間が読みもしないで「一定水準以上のものを自動抽出」しているところもあるそうだ。コンピュータでどう抽出するんだ?というのは情報系エンジニアとしては関心のあるところだが、多くの場合は「賞」とか「位」という単語が含まれている場合には部活動で実績を挙げたと類推するものらしい。
ともあれ、まともな企業ならESをきちんと読んで、知性を評価するとしたら《醜活》に時間を蚕食されるのは内定からむしろ遠ざかっているかも知れない。ES対策と言っても敬体と常体の使い分けもできないレベルなら文章の書き方をまず覚えなくてはならないが、ほとんどのES本とか就職塾の内容って小手先のテクニックばかりで意味がないと思う。面接対策もありきたり。
というCMがありがちなのかも知れない。少し前に流行ったよね「私は例えるのなら○○です」という見出しで始めるES。ある企業の人が10枚のESを読んだらそのうち6枚までが同じような書き出しだったという笑い話もある。まるで笑点のノリ。
歌丸「みなさんは就職活動の学生になって『私は例えるなら○○です』と言って下さい。私は面接官になって『それはどういう意味ですか?』と尋ねますので、何か一言付け加えて下さい、はい円楽さん」
同様にセミナー漬けや企業研究もあまり意味がないと思う。企業研究をしていると言っても毎日WBSを見ていれば知っている程度のことが多い。ただ、中央省庁を受けようと思うとWBSとかNHKスペシャルで同じことを言っていたなーってことを、さも自分の意見であるかのように喋っている人がたくさんいて、あれはよくないと思った。普段から情報ソースに接するのはいいのだけど、自分の頭で考えることも重要。
《醜活》に時間を蝕まれるより有意義に使った方がいい
で、この本だけど、大学生活の時間を有意義に使うことが内定への近道であるという見方をしている。よい授業を取ること、名物教授の話を聞いてみること、厳しいゼミや研究室を選ぶことなど勉強することの重要性を説いている。セミナーや面接で授業をサボることをそれとなく推奨しているような現代の就職活動から見たら変わった意見かも知れないが、やはり学生の本分は勉強することである。企業は学業を軽視しているところは多いけどね。サークルについても社交的な人間になろうというものより、優れた人と多く接する機会の場として捉えているようで、リア充思考のような飲んで騒いでが上手い人になろうというものではなかった。
お金の使い方についても面白いと感じた。100万円を貯めるという目標を実践してみようという記述があった。貯めることにより達成感が得られるとあったが、これはどうでもよい。これは新卒の学生に限らず、自転車操業に陥っているワープアの人やニートにも言えるのだけど、人生を立て直すのに重要なのは落ち着いて考える時間だと思う。具体的には幾ばくかのお金を持っていることで、100万円あれば台北なら1年間生活をして学校に通うことができる。国内にいるにしても、生活費があれば次の仕事に就くまでの間に色々できる。公務員試験でもいいし資格取得でもいい。けれど貯蓄がないと仕事を辞めるわけにいかないから、将来先細りになっていくと解っていても続けるしかない。そうして時間だけが過ぎていき、40歳くらいになってポイ捨てされるかも知れない。
また、エンジニアの間では最新のトレンドを追いかけるために、月に1万円くらいは書籍代を使おうとよく言われている。この本でも奇しくも1万円ほど本を買おうとあるが、エンジニアに限らず継続して勉強を続けることはやはり大事だと思う。就職活動を始める際に日経新聞を読みました程度の人とは雲泥の差がついてくるのも仕方がない。
研鑽を積むものにとって時間は流れるのではなく積み重なる
《醜活》で費やした時間は文字通り流れていき積み重ならないように思う。ある程度は流れに乗るのもいいのだけど、足かけ2年も費やすのは遠回りなのではないか。今の状況は就職したい学生と採用したい企業という二者がいるゲームで、不幸にも非効率な均衡にはまり込んでいる状況なので、これ以上ここに注力してもよい結果にはつながりにくい。まずは落ち着いて考えて、それから必要な努力をして仕事を見つける方がよい結果につながる気がする。
本当にひどい状況だけど変に固定観念を持たずに頑張って欲しい。
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